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満薫【火にかけた水】

(まえがき)
久しぶりの文章系です。満薫のお家での様子のお話です。
若干前回までのマンガの続きっぽくなっています。百合ですが描写はありません!

【火にかけた水】

あの集中力は大したものね、とキッチンテーブルに頬杖をつきながら満は思った。
視線の先には、リビングに設置した丸椅子に腰掛けて絵を描く薫の姿がある。
満のいる位置からは斜向かいのようになっているので、気をつければ視線の隅くらいには入ることができるのかもしれないけれど、薫は先程から全く満の存在を気にかける様子もなくただひたすらに筆を動かし続けている。

満が視線をそらして壁の時計を見上げると、少なくとも満がテーブルに腰掛けてから30分以上が経過したことがわかった。
手にしていたマグカップの中に残っていた最後の一口を空にしてしまうと、満はだるそうなほどゆっくりと席を立った。

「薫。少し休憩しない?」

キッチン内で湯沸し用のケトルを取り出すと、たっぷり目の水を入れて火にかけた。
数十秒ほど時間をおいてから薫に視線を戻すと、それからさらに数秒遅れて薫が満の方を向いた。

「ごめんなさい、満。今何か話しかけた?」

満の方を向いた薫の瞳に、少しずつ現実のものらしい光が戻り始めた。
世の中にいる芸術家の全てがそうかどうかはわからないけれども、少なくとも薫は本気で絵を描いているときまるで現実世界に心がないかのような虚ろな視線をしている。
おそらく薫本人も気がついていないだろう。
そんな瞳をしている自分の姿は。

「休まない?って聞いたの。長く作業をしすぎているから、疲れているんじゃないかと思って」
「そうね、そうかも」

返事をしながらも本心ではそうは思っていない様子で薫は椅子から腰を上げた。
満は火にかかったケトルの様子を一瞬だけ見て、それから薫の絵の方に向かった。

「今回も不思議な絵になりそうね。何かテーマはあるの?」
「テーマってほど大げさなものがあるわけじゃないわ」

薫の絵に興味を持ってくれる他の画商やお客さんからもよく質問をされているけれども、薫は一度も自分の描いた絵について詳細な解説をしたことがない。
隠しているだけなんじゃないかと最初は満も考えていたのだけど、どうやら本当に薫はあまりそういうことには興味を持っていないらしい。
完成までまだ半分くらいと思しき絵に向かい合い、満は目を細めたりしながらじっくりとその全体像を眺めてみる。

「どうかしら?」

少し不安そうに薫が言った。

「どうって。いつもどおりじゃない?悪くない出来よ」

自信満々に自由に描き続けているのかと思うと、こんなふうに突然満に意見を求めてきたりもする。
聞かれてもアドバイスをしたからと言って、作品の良さが増すとは到底思えないので、満はこれまでも大抵そんなふうに当たり障りない回答だけをしておくようにしてきていた。

「満はいつもそうね。私が描く絵にはあまり興味がないみたい」

そう言って薫は手元にあった筆先の絵の具を布で拭った。
特に恨み言を言われたようにも感じなかったけれども、満はなんとなく言い返してみたくなった。

「なんだか、あれこれ指示をしてもらいたいような言い方ね」
「ん…」

肯定でも否定でもないような微妙な声色で薫が返事をした。
所在なさげに動かされる手元を少しの間見つめて、満は薫の顔をのぞきこむ。

「薫は、私に何か言って欲しいの?」

返事をしない薫の眉間に薄くしわが寄ったのが見えた。
表情の変化は一瞬だけですぐに無表情に戻ったけれども、満は見逃したわけではないことを教えるように小さくため息をついた。

「言ってもいいんだったら、言ってみようかな」
「え?」

薫にとってはやや意外な展開だったらしく、素直に驚いた様子で顔を上げた。
満は描きかけの絵の前に指をかざすと、まだ塗ったばかりで固まっていない色の前に置いた。

「もう絵を描くのやめたら?」
「な!」
「本気よ。私、前から薫が絵に打ち込み過ぎるのが好きじゃなかったの」

指先をわずか数ミリ先に押し出して横に動かすだけで、その絵はだめになってしまうだろう。
突きつけるようにした体勢をしたまま満が薫の方を見直すと、薫は複雑な表情をしていた。
困っているような、悲しそうなような、本気でどう返事をしていいかわからないという顔だった。

「それは、嫌」
「どうして?だって、薫は私の意見を聞きたいんでしょ?」
「そうだけど。だって絵は」

言いかけた途中で唇を噛み締めて、薫は満をにらんだ。
こんな鋭い表情もまだできたのねと満は内心で思った。

無言のまま数秒が経ったところで、キッチンのケトルでお湯が沸いたことを知らせる蒸気の音が聞こえた。
ちらりと満はその音に顔を向ける形で先に視線をそらした。
絵の上にちらつかせていた指をどけると、さっさとリビングからキッチンへの一人で移動してしまう。

「冗談よ。悪かったわ」

思いの外熱くなってしまっていた取手に一瞬だけ指を避けさせつつ、満は火を止めてお湯を注ぎ出した。

「あんまり薫が私のことを忘れて夢中になっていたもんだから、少しからかってみたくなっただけ」

にっこりと笑顔を向けてみると、ほっとしたように薫もこわばった表情を崩した。
薫の好きなお茶にするわね、と満がマグカップの準備をすると、薫は感情をあらわにした自分を少し恥じるように「ありがとう」とつぶやいてリビング中央のソファーに腰掛けた。

少し温度が冷めるのを待ってからお湯を注いでお茶を作ってから、満は二人分のカップを並べてリビングの薫の隣に腰掛けた。

「ねえ、満」
「何、薫」

一口お茶を飲んでから、薫は落ち着いた口調で切り出した。
満の位置からは、いつもの薫らしい無表情な横顔が見えた。

「もし、満が本気でやめて欲しいって思っているなら…」
「ちょっと!待ってよ、薫。どうしちゃったの?」
「ううん。ただ、別に」

満はあわてて薫の方を向き直ると、弱気そうになりかけている表情の薫の頬に手をかけて自分の方を向かせた。

「思ってないわ。本当よ」
「そう。ならいいけど」

満の指先が薫の頬を軽くなぞると、それに合わせるように薫の表情がゆるんだ。
これまでもずっと長い間見てきたはずの薫の表情だったけれども、こんなにももろそうに思えたのはその時が初めてのように満には思えた。
今自分の指先の下にあるのは、はかなくてもろそうに見える、いつでも簡単に壊せるものなんだということを知ったようにも思った。

【Fin.】

 

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